まちをあそぶ#01 路上でパブリックビューイング@HYPERMIX門前仲町

ご無沙汰してます、UDです。

長らくの休載期間を経て、久しぶりの投稿です。

トシニスムを始めた時は仙台に赴任していましたが、その後東京に戻ってきています。一度離れてみて、東京という都市は呆れるほど巨大だなあと感じます。巨大さ故に、まだまだ僕の知らない東京のまちの面白さがたくさんあるのだろうとも思います。

さて、皆さんは3ヶ月ほど前に日本、いや世界を包んだ熱狂を覚えてますでしょうか?

もちろん、覚えてますよね。そうです、ブラボー、もとい、サッカーW杯カタール大会です。
僕もその熱狂の渦中にいた一人です。

時差の関係で深夜帯の試合が多かったですが、グループリーグはまだ電車の走っている時間帯に試合があったので、いくつかの試合は友人とパブリックビューイングでワイワイ観戦しました。

そんなときに、「このまちの使われ方はおもしろいなー」と思うこんな光景に出くわしました。

路上で試合を観戦する人たち

ということで、普段の暮らしの中で偶然出会った「まちでの豊かな暮らしぶりを感じる光景」を記録するとともに、それは一体どんな状況なのか、どうしてこんな状況が生まれたのか、なぜ面白いと思えるのかを観察・考察してみたいと思います。

***

1.HYPERMIX門前仲町について

舞台は、門前仲町駅徒歩1分の立地にある「HYPERMIX」という名前の建物です。

低層部にはスポーツジムやカフェなどのまちに開いた機能が、3階から上はシェアハウスやSOHOなどの住宅が入る、名前のとおり複数の用途がミックス=混在した建物です。

設計者は、建築家の北山恒さん率いるarchitecture WORKSHOP。建築を通して柔らかい共同体やコミュニティが生まれることを意図して設計されています。

HYPERMIX
外観

1階のカフェスペースは、貸しスペースともなっていて、地元のチアダンスの発表会やポップアップストアなどにも活用されています。前を通る度に違うイベントをやっていたり、軒下のスペースにはラーメン屋台が出ていたりします。

赤提灯のラーメン屋台

そんなHYPERMIXでサッカーW杯の日本対ドイツ戦のパブリックビューイングを行うということを知り、建築への興味も相まって行ってみることにしました。

あまり大々的な宣伝もされていなかったためか、来場者の多くは地元の人のようでした。

コロナ禍ではあるものの300人ほど入る大きな会場では、プロジェクターによる大画面とサラウンドな音響で臨場感のある雰囲気の中、時折響めきや歓声が送られるなどかなり盛り上がりました。

会場が一丸となって楽しむサッカー観戦が久しぶりだったことと、パブリックビューイングの質がとても高かったこと、何より試合内容的に大満足だったこともあり、第2戦のコスタリカ戦もここで見ることにしました。訳あって、試合開始20分後に到着するという失態を犯してしまったのですが、遅刻したおかげでおもしろい光景を目にすることになったのです。

2.まちに溢れ出す熱狂

その光景というのが冒頭でもお見せしたこちらです。

路上で試合を観戦する人たち(再掲)

HYPERMIXの前の歩道に若者が10人ほどたむろしています。日本代表戦の実況が道路まで漏れ聞こえていて、彼らは路上からサッカーを観戦していたのです。まさに「パブリックビューイングがまちに溢れ出し」ていました。

この状況がなかなかおもしろいなーと思ったので、僕もこの若者の群れに加わることにしてみました。

ここで、一度建物内外で起きていた状況を断面図に書き起こしてみます。

あの日の状況(断面図)

建物の中では、一人2000円でワンドリンク付きのパブリックビューイングに参加できます。客席は床レベルが低くなっているサンクンダイニングに設置されていて、奥のスクリーンに映し出された試合を観戦します。

建物の外では、通りすがりにモニターで戦況を確認する人や、立ち止まってガードレールに腰を掛けて試合を観戦する人がちらほら。建物内の客席がサンクンとなっていることで、奥のスクリーンはガラスのファサードを通して前面道路から覗き見ることもできますが、道路に面する軒下に設置された2台のモニターでも放映されていたため、通りかかった人が方々にそれを見上げているという状況が作られているのです。建物の中に入らずとも、自由気ままにパブリックビューイングに参加し、同じ時間を過ごすことができるという斬新な使われ方が印象的でおもしろいと感じました。

3.都市空間をハックするしかけ

このような使われ方が一体どのように成り立っているのか、私たちなりの視点で詳しく考察してみたいと思います。

①道路を観客席化する“場の設え”

道路上でのパブリックビューイングを誘発する“場の設え”に着目しました。

場の設え

a. 図らずもちょうどいい椅子になる街路設備

一つ目は、緑色の銀杏マークでお馴染み、東京都のガードレール。高さは約800mmのためスツールとしてはやや高いけれど、腰掛けてもたれかかるにはちょうどいい高さだと感じました。

二つ目は、バス停利用者の待合用のベンチですが、HYPERMIXのモニターを観るためのベンチなのではないかと錯覚するくらい絶妙ないい位置にあります。実は、HYPERMIXの軒下空間はバス停の待合所として使用されることが想定されて設計されています。バス停の待合いという行為に最適な軒下空間は、裏を返せば、HYPERMIX側を利用するのに最適な滞在空間を生んでいたのです。

ガードレールとバス停のベンチがちょうどええ

b. 歩道の拡張が生み出すゆとりある滞在環境

清澄通りに面するHYPERMIX前の歩道はバスの停留スペース分狭くなっているものの、約4mと比較的ゆったりとした幅員が確保されています。さらに、まちに開放されていているHYPERMIXの軒下空間と合わせると、モニターからガードレールまでの歩行者空間は約6mとなります。これだけの空間が確保されていることで、ふと立ち止まることに抵抗がない状況が生まれているように感じました。建物の軒下空間を歩道に開くことで、立ち止まる人がいたとしても、道路が完全に塞がって通行の妨げになるようなことはなく、安心して滞在していられる環境がつくられていることが印象的でした。

c. 視界を遮らない見上げる高さのモニター

試合を映し出すモニターは、軒下に2台設置されています。画面の大きさはそこまで大きくないですが、スピーカーも設置されているため、楽しむには十分の臨場感がありました。なにより高い位置のモニターを「見上げる」ことは、前にいる人が邪魔でモニターが観れないという状況を生まないため、より多くの人が思い思いの場所で安心して観戦できていたように思います。

d. 10分に一度やってくる移動式の暖房システム

コスタリカ戦は11月末ということで、正直、夜の立ち見は冷えました。そんな中、ときたま「あったけー」となるときがありました。サッカーの熱で、、、ということではなく、その正体はバス停に停まるバスからの排熱でした。観戦中、バスが停車する度にバスの排気がちょうど背中側から当たることで、暖を取ることができたのです。「バスの排熱を熱源にする」というアイデアはどこかで使えないかと考えています。

さらに余談ではありますが、バスの座席からもちょうどよくモニターが見えるのではないかと推測します。検証できていませんが、ちょうど立ち見する人々の頭越しにモニターを眺められるのではないかと思っています。こちらは、仮設の観戦席としての活用がありそうです。

e. 最後はやっぱり天候

屋外での活動は、当然、天候に左右されます。試合当日は晴れていたからこそ、このような光景を観ることができました。ただ、軒下の空間もあるので、雨の日は雨の日でまた違うパブリックビューイングが行われたのかもしれません。

また、今回は異例の冬開催となったW杯ですが、例年どおりの夏開催だったら、もっと沢山の人が詰めかけたのかも。

ここで紹介した“場の設え”のうち、実際に観客席化する意図を持って仕掛けられたと言えるものは軒下空間(b)とモニター(c)だけだと思います。それでも、歩行者の安全を守るためのガードレール(a)に腰を掛けているうちにその場がまるで観客席のように思えてきて、とうとうバス(d)を暖房だと思ってしまうように、不思議と想像力が掻き立てられました。道路を観客席として使っていると、「これは〇〇として使えるなー」というようにその場所を使いこなしたくなってきて、それは都市を面白がって“遊ぶ”という感覚に近かったように思います。HIPERMIXの設えがまちを遊ぶきっかけを作っていたとも言えるのではないでしょうか。

②多くの“関わりしろ“を残すデザイン

1)長期的な視点を持った施設運営

先にも記載したとおり、建物内のパブリックビューイングは2000円という料金設定であるのに対して、路上でのパブリックビューイングは0円。つまり、運営者としては路上観戦者が増えたとて1円の利益にもなりません。

それでは、なぜ路上でのパブリックビューイングが許容されたのでしょうか。

その鍵は、HYPERMIXという建物の運営形態にあるのではと思っています。というのも、HYPERMIXは低層部のカフェやジムなどの誰でも利用が可能な用途と上層部のプライベートな住宅部分を一つの運営者が管理しています。低層部の機能でできるだけお金を稼ぎ、上層部の住宅の賃料を抑えています。

今回の例でいえば、路上に向けて試合を放映することで、パブリックビューイングをやっているということを広く知らしめることができる。さらに、この作り出された光景や利用者の発信によって建物が認知されることで、平時の利用者や入居希望者が増えることにもつながります。つまり、短期的に利益がなくとも、長期的には建物のPRとなり運営者の利益につながるのです。

もし、低層部と住宅部の管理者が違ったら、きっと個々バラバラの利益のために動いてしまい、こんな状況は起きづらかったのではないでしょうか。

2)あいまいな空間が誘発する多様なアクティビティ

人や車が通行するための道路が、人が滞留しパブリックビューイングを楽しむ広場のような使われ方をされていたのは、やはり軒下のパブリックスペースが効いていたように思います。ただ、同じような軒下のパブリックスペースさえあれば、どこでも同じような状況が起きるというわけではありません。

この建物には、誰もがアクセスできるあいまいな空間がたくさんあることが鍵だと思います。

例えば軒下の側面部分に喫煙所が設けられていて誰かしらタバコを吸っていたり、表通りから裏通りに抜けることができる敷地内通路は24時間誰もが通ることができたり、1階のカフェスペースはもちろん誰もが利用できて、2階のジムもまちに開かれています。こうしてこの建物は道路や公園や商店街と同じように、都市を構成する一つの要素としてゆっくりと地域に馴染んでいっているように思えます。

これらの「軒下空間」、「敷地内通路」、「1階のカフェ」などの誰もが入れるパブリックであいまいな空間が、元々都市に存在したパブリックな空間と溶けあいHYPERMIXの機能が道路にまで漏れ出すことで、一体のパブリックスペースとして人々のアクティビティを誘発した結果、今回の光景が見えていたのです。

この建築が地域に根を下ろし、開いた芽は周囲に伸びて、敷地という境界を超えて街のあり方そのものに影響を及ぼしているのかもしれません。

上層部にシェアハウスがあることも少なからずパブリックスペースを活用する雰囲気を醸成していることに一役買っていそうだと勝手に思っています。

そういう意味では、今回見た光景は、様々な条件が偶然生み出した光景ということではなく、設計者と運営者が意図した延長上に生まれた光景だったと言えるかもしれません。HYPERMIXという建物それ自体は、道路や河川と同じ都市の中のひとつの構成要素として設計されたに過ぎないですが、多くの人が関わりやすい”関わりしろ”が設計されていることで、一人の設計意図を超えて多様なアクティビティが生み出されやすい環境ができていたのだと思います。そして、意図されたものを超えて、ガードレールが椅子として使われるような意図されていなかったふるまいまでもがまるでそうであるのが当たり前のように映ったことが、豊かなことに思えました。

4.まとめ

「路上でパブリックビューイングする」という光景について、考察してみました。

この状況を成り立たせるためには、人々のふるまいを誘発する設えや敷地境界線を超えて溶け合うパブリックであいまいな空間、それらを自由に使うことへの寛容な運営形態がありました。そしてなによりも、門前仲町というまちがこのようなまちの使われ方に寛容であったということがとても重要なのだと思います(実際に警察官が何度か見回りに来ていましたが、特に注意をするようなことはありませんでした)。

もちろん公共の場なので過度に迷惑を掛ける行為は控える必要はありますが、一定の節度を持った範囲でまちを面白く、豊かに使ってみることは、日々の暮らしを面白くしていくはずです。

今回この記事を書くにあたって、末尾に記載の文献を参考にしました。また、文献だけでなく、時間を見つけてはHYPERMIXに足を運び、改めて日常の使われ方を観察したり、屋台のラーメンを食べてみたりと、少しでも対象に近づこうと試みました。ただただ自分の興味に従って対象に接近してみるという行動は久しぶりの感覚で、学生の頃の研究活動を懐かしく思い出すとともに、とても充実した時間となりました。もう少し時間があれば、運営者への取材などもしてみたかったですが、今後の課題とさせていただきます。


最後の最後に、ぼくたちに勇気と感動を与えてくれたサッカー日本代表に感謝の言葉を送らせてください!ブラボー!!!

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toshinismでは、ルームシェア生活での発見や気づきを軸に、広く都市に住まうことについて発信していく予定です。

皆さんが当たり前に行っている日々の暮らし。

それは、たかが暮らし、されど暮らし。

ゆるゆると更新していますので、ご興味関心のある方はお気軽にコメントください!

それではまた!

筆:UD


◯参考文献

  • 北山恒.建築論壇「再び集合へ 都市は柔らかい共同体をつくれるか」.新建築.2018年2月号,pp54-62
  • 北山恒+工藤徹/architecture WORKSHOP.「Hypermix 超混在都市単位」.新建築.2018年8月号, pp.40-51
  • 江東区マンション等の建設に関する条例
  • 江東区道路台帳

※一部の寸法は図面から算出しているため、正確ではありません。ご容赦ください。

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