今年10月にうめきたプロジェクト第二期の「グラングリーン大阪」がオープンしました。西日本最大のターミナルである大阪の駅前に約24haもの大規模な広場ができ、街の印象はガラリと変貌を遂げています。
昨今、都市・建築界隈では、質の高いパブリックスペースをいかに作り、維持管理していくかといった在り方が議論されているように感じます。国内では前述のグラングリーン大阪の広場をはじめ、大規模都市開発やPark-PFIの実績が積み重なってこれまで以上に「使われるパブリックスペース」が増えてきているような印象です。(単なる広場をつくるだけでは街としても建物としても評価されない時代に…)
前置きが長くなりましたが、今回は前回に引き続き、僕たちがバンコクで訪れ体験したパブリックスペースについて引き続きご紹介したいと思います。
今回は、3つのキーワードの一つである”スカイ”について考察していきます。
目次
1.スカイ(=パブリックスペース)の種類
”スカイ”って何?という話ですが、ここでは「地上よりも高い位置にあるパブリックスペース」を”スカイ”と呼ぶことにします。バンコク都心部では地上の大半が車のための空間になっており、アスファルト舗装で埋め尽くされた地上部の温暖で高湿度な環境を踏まえると、歩行者にとっての快適な利用条件とは言い難い状況です。そんな熱帯気候特有の蒸し暑さから逃れるための解決策の一つが前回の記事でとりあげた”モール”でした。そして今回紹介する”スカイ”も同様に、地上部を避け、過大な自動車交通から逃れるための解決策の一つなのではないかと考えています。
バンコクの”スカイ”を分類すると、次の3つに分けられると思います。
1)交通基盤・建物一体型スカイ[SIAMエリアのスカイウォーク]
一つ目は、『交通基盤・建物一体型スカイ』。いわゆる歩行者交通ネットワークとしてのパブリックスペースです。
交通網が急速に発達したバンコク都心部では、地上に自動車道、道路上空に鉄道網が敷かれているのが特徴。では、人々はどこを歩き目的地へと向かうのか。バンコク都心部では公共交通等から歩いて目的地にたどり着けるルートが建物内外を貫通しながら地上と鉄道網の合間を縫うように形成されていました。
2)ルーフトップ型スカイ[マハナコンタワー他]
二つ目は、『ルーフトップ型スカイ』。
一つ目にご紹介した『交通基盤・建物一体型スカイ』を第二のグランドレベルと仮定するなら、バンコクの「ナイトライフ&ナイトタイムエコノミー」を象徴するカルチャーとして定着したこのルーフトップは、超高層ビルの頂部に開放された新たな体験価値を提供する第三のグランドレベルとなっています。
3)ランドスケープ一体型スカイ[ベンチャキティ森林公園スカイウォーク、チャオプラヤー川スカイパーク]
三つめは、『ランドスケープ一体型のスカイ』です。
前述の交通基盤・建物一体型が歩行者の利便性を高める機能的なスカイであったのに対して、このランドスケープ一体型は『歩きたくなる、外で過ごしたくなる』といった体験価値に特化し、同時に都市の中に新たな景観を生み出すことにも成功しているように思います。
上記3つのスカイ事例を紹介していきます。
2.バンコクのスカイ
1)交通基盤・建物一体型スカイ
➀SIAMエリアのスカイウォーク
地上は自動車、高架は鉄道と、インフラ優先で開発された都市で、その間隙を縫うように人中心のパブリックスペースが生まれている。巨大なインフラにキノコのように寄生するデザインが面白く、バンコクのサイバーパンクな風景を創出。
東南アジアの汗が噴き出る蒸し暑い気候において日除けは必須中の必須。みんなキノコ型の日除け下に固まっている。このキノコは真ん中の柱が雨樋になっている。
skywalkの一つのRWALKのデザインは、波打つかたちの屋根が特徴的。単純な形態操作ではあるけれど、実際にそこに立ってみると、奥まで歩いてみたいと思わせられる。歩いて楽しいウォーカブルなまちを作り出すには、土木景観デザインも大事だなと実感。
バンコクのskywalkは、鉄道高架やモールを介してリニアに展開する。駅を中心に歩行者デッキを放射状に張り巡らせる渋谷の開発と似ているように思う。前者は地上の自動車交通との闘いで、後者はすり鉢地形との闘い。克服する相手が違いそうだ。
改めてバンコクの経済成長を肌で感じるとともに、都市部への人口増とモータリゼーション化をどう受け止めるかといった都市課題も同時に見ることができた。 新旧開発の内外を行き来するskywalk、この張り巡らされた人工地盤がその解決策の一つになり得るのだろうか。
2)ルーフトップ型スカイ
➁マハナコンタワー
バンコクといえば、美しい夜景とともに特別な時間を過ごすルーフトップバーがあまりにも有名。日中は暑くて外で過ごすことができない”バンコクライフ”にとって、なくてはならないナイトタイムエコノミーの一つ。 今回立ち寄ったMahanakhon Skywalkは2018年末に開業した超高層展望台。地上314m、78階。
ルーフトップのアトラクションの一つに下が丸見えのガラス張りの床がある。こちらはなんとキャンチレバー。靴を脱いでスリッパで上がるというルールだけで怖い(ガラスにヒビが入らないようにとのこと)。楽しませてくれるぜ、まったく、、。
マハナコンタワーはOMAによる設計。マインクラフトで積み上げたかのような、ピクセルのバグみたいな形が面白い。ピクセルの窪みは屋外テラスになっていて機能性も両立している。
3)ランドスケープ一体型スカイ
➂ベンチャキティ森林公園スカイウォーク
昼下がりのBenchakiti Forest Parkへ。高層ビルが立ち並ぶアソークエリアの南に位置する森林公園で、2022年の拡張工事によって生まれ変わった新しい都会のオアシス。総面積は約48ha。巨大な湿地帯の上を”スカイウォーク”がつなぎ、美しいランドスケープと高層ビルを背にした近未来的な風景が味わえる。
この公園の良さを引き立てるのは、園内に張り巡らされた”スカイウォーク”。普段は見上げることしかない森林をその上空から見渡し、人々に多角的な視点と発見を与えている。人工地盤の上はゆとりのある幅員があり、造形や配置だけでなくライティングすらも自然に溶け込んだミニマムなデザインで好印象。
巨大なビル群を借景にしたランドスケープが個人的なツボ。こういう近未来的な風景を目の当たりにすると、巨大な開発も悪くないなと肯定的な気持ちになれる。
➃チャオプラヤー川スカイパーク
チャオプラヤー川に架かるChao Phraya Sky Park。プラナコーン地区とクローンサーン地区を結ぶ橋上の中央部につくられた空中庭園で、鉄道橋の一部を緑ある公共空間として再生したプロジェクト。道路越しに川を一望でき、心地よい場が随所に。真昼に訪れたため散歩を楽しむ人々の姿は見られず。
3.まとめ
バンコクの4つの事例を紹介しました。今回の記事で紹介した”スカイ”はほんの一部であり、バンコクには私たちの知らない”スカイ”がまだまだあることと思います。
パブリックスペースを取り巻くダイナミズムの中で、バンコクの過酷な環境下で生み出されたパブリックスペースには一貫した理論があるように思えてきます。例えば、過大な自動車交通からの脱却に向けて利便性や機能性を追い求めたが「SIAMエリアのスカイウォーク」であり、大都会の喧噪からの解放に向けて新たな体験価値を追求したのが「ルーフトップ」や「ベンチャキティ森林公園スカイウォーク」なのだろうと思います。
改めて1年中真夏のような国ならではの空間づくりの在り方を目の当たりにしました。前述のモール編が屋内に解決策を見出した“日中のパブリックスペース”だったのに対し、スカイ編では屋外への人々の欲求を地上ではないレベルに生み出すことで解決策を見出した“夕暮れ時のパブリックスペース”と言えるかもしれません。
つまり、バンコクのスカイは『過酷な条件下でも過ごしやすい環境を追い求めた第二、第三のグランドレベル』を実現しているのです。
バンコクのスカイがどのように発展していくのか、今後の展開が楽しみです。
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次回は、バンコクの都市・建築を語る3つ目のキーワード”グリーン”について紹介します。
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筆:MD