タイ・バンコクは、急速な都市化とともに、都市空間の再構築が進んでいます。その変化は、都市型の大型ショッピングモール、張り巡らされたスカイウォーク、そして温暖な地域ならではのグリーンのあり方に顕著に表れていました。これまでの記事では、都市空間の3つの側面から、バンコクの都市戦略と市民生活の変化を読み解く手がかり(プロセス)をお示ししてきました。
今回は、そんな僕たちにとって価値あるバンコク旅の総集編です。
1.バンコク旅の振り返りとまとめ
1)モール文化が担う新たな公共性
バンコク都心部の都市型ショッピングモールは、単なる消費空間を超えて、都市の「リアルな公共空間」として機能していることが見えてきました。それは、”ウルトラモール”とも言える屋内空間の圧倒的な空間拡張やコミュニティや滞在に特化した機能拡張による産物です。高架鉄道(BTS)と直結するペデストリアンデッキは、駅からモールへと人々を誘導し、それらが連なることで、都市空間を強固に結び付けています。バンコクにおける”モール”とは、交通の結節点であり、気候に左右されない快適な滞在空間として、都市生活者の居場所となっていたのです。
ー熱帯気候の蒸し暑さから逃れるための”モール”
2)スカイウォークと都市の垂直化
バンコクでは、スカイウォークやペデストリアンデッキが都市の新たな公共空間として定着しています。これらは、地上の渋滞や歩道の未整備を回避し、都市の垂直的な空間利用・回遊性を高めると同時に、都市の風景をも変化させています。都市公園内でみられた「空中庭園」や超高層ビルの「屋上広場」など、垂直方向への空間の拡がりは、都市の新たな「余白・余暇」として注目を集めています。
ー過大な自動車交通から逃れるための”スカイ”
3)みどりの再構築:「15分公園」構想と市民参加
バンコク政府は、2026年までに「15分以内にアクセスできる公園」を500か所整備する計画を進めているようです。空き地や高架下など、未利用地を活用したポケットパークの整備は、都市の緑化と住民のウェルビーイング向上を目指すものとして注目を集めています。この取り組みは、行政主導ではなく、地域住民の参加によって支えられており、都市空間の民主化とも言える動きになりえるのではないでしょうか。
ー都市の過密さから逃れるための”グリーン”
2.総括
こうして書き留めていくと、思っていた以上にバンコクの都市づくりが濃厚で充実していると感じます。既に三つの記事をご覧いただいた方は気づいたかもしれませんが、実は各キーワードがそれぞれで独立しているのではなく、3つの要素が複雑に組み合わさることで魅力を形成していることがわかります。
例えばコモンズは、「モール」と「グリーン」が組み合わさることで、熱帯気候ならではのイキイキ/ハツラツとした植物を身近に感じられる居心地のよい空間体験を生み出しています。日常の風景に溶け込んだ新たなモールとしてバンコクらしいライフスタイルオリエンテッドなデザインが非常に魅力的でした。

ベンジャキティ公園は、「スカイ」と「グリーン」を組み合わせることで、公園という単一的な用途の空間に対して、立体的な奥行きとシークエンスを生み出すとともに、エコロジカルツーリズムの観点から新たな体験価値を付加しています。そしてそれをあの規模と立地で実現することで、後背地の超高層ビルとの相乗効果でダイナミックな景観を生み出しています。

以上のように、バンコクの都市空間は、消費=モール・移動=スカイ・自然=グリーンの三要素が交差する場として再構築されつつあります。”モール”は公共空間となり、”スカイ”は都市の新たなグランドレベルとなり、”グリーン”は市民の手によって育まれている。これらの変化は、都市の未来を市民とともに創るという意思の表れであり、人口減少や気候変動といったグローバルな課題に対するローカルな応答でもあります。

要素 | コア機能 | 付加価値 |
MALL / モール | 気候制御・滞在・交通結節(=新たな公共性の獲得) | コミュニティ形成・学習 |
SKY / スカイ | 高架回遊・垂直化・連結(=第二のグランドレベル) | 新たな都市景観・快適性 |
GREEN / グリーン | 15分公園・市民参加・生態系(=みどりの再構築) | ウェルビーイング・レジリエンス |
アジアの都市化は、それぞれの地域が置かれている気候風土や、経済成長が始まった時代背景などのコンテクストによって、課題解決の手段や方法が異なります。その結果として形成される都市の姿も大きく異なり、それが非常に興味深く感じられました。特に、同じアジア圏の都市同士を比較することで、こうした違いがより鮮明に浮かび上がってくるように思います。
マクロな視点で都市を捉えたとき、都市がまるで生物のように進化していること、そして同じ「種」でありながら異なる進化の道を辿っていることに気づかされます。今回の旅では、そうした都市の“生物的な進化”を肌感覚で実感できたことが、非常に意義深い体験となりました。
中でも、今回特に印象的だったのは「気候風土」による違いです。気候への対応の仕方が、日本とはまったく異なる都市空間や建築様式を生み出しており、それが都市生活者のライフスタイルにまで影響を及ぼしている点がとても新鮮でした。温帯気候に暮らす私たちにとっては、そうした都市の姿は刺激的で、見応えのあるものでした。
“ヴァナキュラーな建築・土木デザインでありながら、いずれも暮らしに根ざしている“
これが今のバンコク都市空間の現在地なのかなと。
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toshinismでは、ルームシェア生活での発見や気づきを軸に、広く都市に住まうことについて発信していく予定です。
皆さんが当たり前に行っている日々の暮らし。
それは、たかが暮らし、されど暮らし。
長かったバンコク編がついに完結しました。(執筆者側の都合ですがw)
次回以降は、都市の要素をテーマ切りにしながら、僕らの体験・経験してきた面白い事例・空間を紹介していきたいと思います。
引き続きゆるりと更新していきますので、ご興味関心のある方はお気軽にコメントしてください!
それでは、またお楽しみに!
筆:MD